地域の魅力向上を目指した
近鉄初の地元企業とつくる駅
PROJECT 05
針中野駅と長居公園をつなぐ
地域活性化プロジェクト
近畿日本鉄道株式会社
担当部署 / 総合企画本部 企画推進部
鉄道本部 大阪統括部 施設部
ヤンマーホールディングス株式会社
担当部署 / ブランド部 デザイン室
※部署名などは取材当時のものです
長居公園や駒川商店街など
魅力あふれる東住吉区
- 近畿日本鉄道(以下 近鉄)
- 針中野駅が所在する東住吉区は、大阪を代表する総合公園の「長居公園」や大阪市の三大商店街のひとつといわれている「駒川商店街」など、さまざまな魅力がある街です。この東住吉区が2021年4月に「東住吉区まちづくりビジョン」を策定したことをきっかけに、当社では針中野駅を通じて個性豊かな地域の魅力を広く発信することで、街の活性化につなげる取り組みを検討していました。その頃に東住吉区からの紹介がきっかけで、長居公園を管理されているヤンマーグループのわくわくパーククリエイト株式会社様、そしてヤンマーグループ全体のデザインを統括されているヤンマーホールディングス株式会社様と知り合うことができ、街の活性化についてご相談したことで今回の協業がはじまりました。
- ヤンマーホールディングス株式会社(以下 ヤンマー)
- そうでしたね。長居公園および長居植物園のリニューアルに際して、私たちはブランディングやロゴマークの制作などを担当していることもあり、当社にとっても東住吉区は深く関わりのある街です。今回、近鉄様から「街の活性化のため、駅の一部分に長居公園を感じさせるデザインを描けないか」という最初のご要望をお聞きしてから、まず私たちは針中野駅へ足を運びました。駅や周囲の環境を見て回ったところ、利用者の方に駅の変化を感じてもらうには、駅の一部分ではなく、空間全体をデザインして印象づけるのが最善なのでは、と考えました。
長居植物園の最寄り駅であることを
アピールするために
- 近鉄
- 今回のリニューアルでは、植物園に新たにできた北東ゲートから最も近い駅としての認知度を高める目的で、針中野駅に「長居公園 植物園前」と副駅名を付けました。また、お客さまに「駅でも植物園を感じてもらいたい」という思いがありまして、このことをヤンマー様にお伝えしたんです。すると、駅全体を空間デザインするご提案をいただき、その内容と熱意に強く心が動かされて、当初の予定を遥かに上回るプロジェクトを始めることになりました。
- ヤンマー
- 駅全体のデザインは、公園のメインターゲットがファミリー層であることや公園のコンセプトである「わくわく感」を踏まえた、他にはないような魅力あふれるものにしたいと考えました。そこで、公園の世界観を表現するために同園のロゴマークと同じグリーンカラーや丸・楕円といったシルエットをベースにし、植物園を連想できるようなデザインにしています。例えば、ホームを訪れた人がまず「柱が木になってる!」と足を止めてくれて、よく見ると色々な植物や生き物が描かれている、というのを楽しんでもらえるように、シンプルかつ印象的なデザインにしました。
- 近鉄
- 通常、駅を大きく改装する場合は、柱・壁・天井などをすべて撤去して取り換えたり、最初から作り変えることが多いのですが、今回は基本的な構造はそのままで、デザインを工夫することで大きくイメージチェンジをすることができました。
- ヤンマー
- そうですね。サスティナブルといった理念が当社や長居公園にあるので、最小限の資源で最大の効果が得られるよう考えました。当初、ホーム全体をグリーンカラーで統一する予定でしたが、ホームの一部は2020年に改装したばかりで、近鉄様から元々ある水色の塗装はそのままにしたいとのご要望があったので、植物園の池に見立てることで既存の塗装を活かすことにしました。
- 近鉄
- すごくうまく活かしていただきながらグリーンの部分とも一体感があり、そのデザイン力に感動しました。
※北東ゲートの運用開始時期は只今調整中です。(2022年9月現在)
あちこちに登場する生き物や植物が
親子のコミュニケーションのきっかけに
- ヤンマー
- 長居公園や植物園に生息している生き物や植物を駅の色々な場所に描いていますが、あえて作り込みすぎないパズルのようなデザインにしています。「これは何かな?」と子どもが想像力を膨らませ、親子の会話のきっかけになればいいなと思っています。そして、公園に行った際に「これ駅で見たやつ!」と“わくわく”してもらえると嬉しいですね。
- 近鉄
- 駅に描かれる生き物が少しずつ増えていって、私たちも進行状況を確認しに行くのが楽しみでした。笑
- ヤンマー
- 私たちも「次はどんな生き物がいいかな」と“わくわく”しながらデザインしていました。ホームやコンコース、階段など、足元から天井近くまで、駅に描いた生き物は全部で30種類以上。この多様さも、より公園を感じられるポイントになっていると思います。ぜひ、探す楽しみを味わってほしいです。
ヤンマーの熱意は
近鉄グループにも伝わり
施工会社の方々にまで
「わくわく」が広がる
- ヤンマー
- 実は、近鉄様にお会いする前は鉄道会社というので少しお堅いイメージがあったのですが、個性的で色鮮やかなデザインを受け入れていただいたことから柔軟性が高い会社だとわかり、さまざまな面でデザインへのこだわりについてご相談ができました。また、当社では初めてとなる公共施設のデザインでしたが、駅ならではの課題や条件などを教えていただきながら話し合いを繰り返したことで、細部まで調整できたと思います。
- 近鉄
- 駅は多種多様な利用者様がいらっしゃるからこその注意点やメンテナンスを意識した工夫も必要であることをお伝えすると、ユニバーサルデザインのご提案や汚れの目立ちにくいカラーリングへの変更など臨機応変にご対応いただき、ますます魅力的な空間ができていきました。その一方で「ここはどうしても最初の提案通りに進めたい」とデザインを重視される場面もありましたね。
- ヤンマー
- そうですね。事前に自動販売機やゴミ箱などのカラーリングを変更するのは難しいとお聞きしていたのですが、全体の統一感には色を合わせることが大切なのだとお伝えした後に駅を見に行くと…、グリーンに塗られていて!
- 近鉄
- ヤンマー様の熱意を受けて、どうにか実現したいと奔走しました。自動販売機は近鉄リテーリング、アートの展示スペースは近鉄不動産の管轄で、施工するには各社の了承が要ります。ですが、実際に駅のリニューアルデザインを見てもらいながら説明をすると、ヤンマー様のデザインと熱意が近鉄グループに広く伝わり、各社にも快く承諾してもらえました。グループ一体となってプロジェクトに取り組んだ、いい事例になったのではないかと感じています。また、今回のデザインに込められた「わくわく」や「温かみ」を表現するには、手塗りしかない!と強く思い、デザイン部分のハンドペイントを施工会社に依頼しました。通常はあまり行わない方法なので大変な苦労をかけたと思いますが、楽しみながら仕事されていたのが印象的でした。施工会社の方々の技術によって、見事にデザインに込められた思いを表現していただいたと思います。工事は多くの方々のご理解とご協力により、スムーズかつ安全に進めることができました。皆さまには心から感謝しています。