サイクルトレインプロジェクトの写真 サイクルトレインプロジェクトの写真 サイクルトレインプロジェクトの写真
住むまち近鉄story

暮らしを豊かに、地域の魅力を広げる
電車の新サービスが始動

PROJECT 06

サイクルトレインプロジェクト

近畿日本鉄道株式会社
担当部署 / 田原本線:鉄道本部 大阪統括部 運輸部
     志摩線:鉄道本部 名古屋統括部 運輸部
自治体
担当部署 / 田原本線:河合町 企画部 政策調整課
     志摩線:志摩市 産業振興部 観光課

※部署名などは取材当時のものです

電車に自転車をそのまま
持ち込むことができる便利なサービス
サイクルトレイン

近鉄電車をご利用の方の利便性向上や
沿線活性化を目指して、2022年に導入しました。
関西・東海でそれぞれ近鉄として最初の取り組みとなった
田原本線・志摩線のサイクルトレインについてご紹介します。

田原本線

奈良県で初めての
サイクルトレインが走る田原本線

サイクルトレインが走る田原本線の写真

近畿日本鉄道(以下 近鉄)
当社は本線の他にも支線を持っており、電車はさまざまなエリアを走っています。それらの新たな利用促進を模索する中、自治体へも相談に伺っていました。そんな時、奈良県で近年進められている自転車活用推進計画の中にも「鉄道における取り組み」といった目標があったんです。そこで田原本線でサイクルトレインを実施するのはどうか、という話が挙がりました。
河合町
あの時は、色々なタイミングが揃いましたね。奈良県の施策のこともありますが、2021年に県随一の花の名所である「馬見丘陵公園」の方から、河合町に「電車に自転車を乗せることができれば来園者の幅も広がるのでは」という相談があって、それともマッチしました。そこで、県の担当課や他の自治体にも相談したところ、約半年後には試験運行が始まることになりました。新規の案件で、しかも公共交通機関が連携して、こんなに短期間で物事が進むのはとても珍しいことです。
近鉄
当社でもこのスピード感は稀なケースだと思います。西田原本駅から新王寺駅までの東西を走る田原本線は近鉄沿線で唯一、他の路線とつながっておらず独立しています。その特性から他線への影響も少なく、また利用区間がわかりやすいのでサイクルトレインに向いていると考えました。

サイクルトレインだからこそ
アピールできる沿線の魅力

打ち合わせの写真

近鉄
発案から実施までが短期間とはいえ、何よりも自転車を持ち込まれるお客様と、いつものように乗車されるお客様との双方の安全を第一に考えました。田原本線では通常、3両編成のうち先頭車への乗車が多いことから、自転車の持ち込みは2両目に限定。また、自転車を押しての階段利用は転倒の可能性があり危ないので、階段のない駅のみを乗降対象としています。そして、観光目的だけでなく、日常生活でも気軽にサイクルトレインを活用いただきたいとの思いから、通常運賃のみで乗車できるようにしました。
河合町
安全安心にご利用いただくためにはサイクルトレインへの理解や認知度が大切なので、地元の方へのお知らせは各沿線町が発行する町の広報紙で一斉に行いました。また、県が運営するサイト「ジテンシャでなら」にも紹介ページを作りました。
近鉄
当社でもホームページでサイクルマップと共に情報を発信しています。沿線には河合町と広陵町をまたぐ広大な馬見丘陵公園をはじめ、三宅町の太子道や田原本町の唐古・鍵遺跡など、自然と歴史を体感できる見どころが点在しているので、そのような情報も知っていただけるとうれしいですね。田原本線のサイクルトレインは試験運行を段階的に実施し、2023年の春から通年でご利用いただけるようになりました。これまでに2回ほどテレビで取り上げられ、自転車と一緒に乗車されるお客様は増えてきています。
河合町
新聞にも取り上げていただきましたよね。サイクルトレインの反響を知ることができてうれしかったです。通年運行が決定した際に、河合町ではカフェやお花見どころなど自転車だからこそ楽しめるスポットのマップを作って配布しました。今後は、免許の返納に来られた方にもマップをお渡しして、健康的な生活のサポートに役立てられたらとも考えています。
近鉄
いいですね。メディアの影響もあって、当社には「学校の友達と乗ってみたい」「家からは遠いが、最寄り駅からなら子どもと自転車で公園に行ける」といったうれしいお声が届いています。

馬見丘陵公園でサイクリングを楽しむ写真
馬見丘陵公園

福祉や観光、交通の充実など
多様な可能性を伝えたい

河合町
私たち行政サイドは、サイクルトレインには高齢者の活動範囲を広げる福祉面や観光促進の力、公共交通の充実など、多様な可能性があると考えています。また、地元の学校で自転車の安全運転について役所の職員が講習をする機会があるので、その際に日常生活にサイクルトレインを取り入れると行動範囲が広がり健康にもいいですよ、ともお話ししています。若い方へもサイクルトレインの活用方法を伝えることで、町の発展にもつながっていけばと思っています。
近鉄
学生の方にもどんどんご利用いただきたいですね。今はまず、サイクルトレインの認知度を高めることが大切で、多くの方にご利用いただけるような取り組みについてはアイデアを練っているところです。自転車の持ち込みができるのは1列車で最大16名までなので、一気に集客するようなイベントでなく、普段から利用できるような工夫が必要だと考えています。
河合町
その点では、河合町を含めた北葛城エリア4町(他に上牧町・王寺町・広陵町)で実施している「御墳印帖プロジェクト」がぴったりですね。古墳を巡って印を集めるのは全国でも珍しいもので、御墳印を目的に関東など遠くから来られる方もいます。他にも、町で活動する自転車愛好団体の方の協力を得て、そのアイデアを近鉄さんに共有することで、さらなる広がりが生まれたらとも考えています。
近鉄
いいですね! これからもそうした各沿線の特徴やイベントなどを地元と連携し合い、さまざまな媒体を活用した情報の発信にも力を入れていきます。多くの方にサイクルトレインに関心を持っていただき利用の機会を増やすことで、地域や鉄道の活性化につながるよう工夫していきたいと思います。

志摩線

風光明媚な名所を存分に味わえる
鉄道×自転車ならではの
新しい旅スタイル

国府白浜をサイクリングするの写真国府白浜

近鉄
2020年から続いた感染症の流行で鉄道業界にも影響が出ていた頃、「これまでとは違うお客様にもご利用いただくには、新しい取り組みが必要だ!」と考えていました。その際、志摩市さんから以前よりご相談があったサイクルトレインについて検討してみようということになりまして。
志摩市
そうですね。この辺りに来られる方は近鉄電車を利用されるケースが多く、志摩市内には自転車だからこそ楽しめる風光明媚な場所がたくさんあります。サイクルトレインがあればそういった名所もまわっていただけて、地域の活性化にもつながるのではと思っていました。他にも、自然の中でのアクティビティが流行していることや志摩市がスポーツ観光都市宣言をしていることもあって、近鉄さんにお話しさせていただきました。
近鉄
サイクルトレインの実施にあたり、最も重要だったのはやはり“安全性”です。設備やルール設定などの参考に、すでに実施されている他社にヒアリングしたり、現地へ視察に行ったりした上で、案内表示や誘導方法などを検討していきました。

安全に楽しく、快く、
さまざまなシーンで
サイクルトレインを活かせるように

打ち合わせの写真

近鉄
当初、乗車区間は五十鈴川駅から賢島駅を想定していましたが、沿線に暮らすお客様にもご利用いただきたく、休日には多くの方が住む松阪駅から宇治山田駅も含めることにしました。実施にあたっては自転車の安全面から、鵜方駅や志摩磯部駅などの橋上駅舎ではエレベーターの使用をお願いしています。さらに、車内で自転車が倒れないよう使っていただく固定ベルトは、駅でも貸し出しています。
志摩市
サイクルトレインを利用できる時間帯についても近鉄さんの工夫を感じました。朝から移動でき、夕方まで観光を楽しめるようにと、週末は運行時間を幅広く設定されていますね。私たちは利用者が快く乗車できるよう、車内に自転車のある光景が普通だと感じられるように、周知を積極的に行うことで利用環境の醸成を進めてきました。最近は、自転車を持ち込む光景がなじんできたように思います。他にも、力を入れているのがレンタサイクルの普及です。
近鉄
当社も、サイクルトレインの利用促進の一つにレンタサイクルとの連携を推しています。伊勢志摩エリアは伊勢神宮内宮をはじめ横山展望台や夫婦岩など、駅から離れた名所が色々あります。徒歩ではアクセスに不便を感じるような観光地を、サイクリストの方だけでなく普通に観光で訪れた方にも楽しんでいただきたいですね。
志摩市
観光に来られて自転車を少しの時間だけ使いたい方や、駅のポスターを見て「ここで写真を撮りたい!」と思われる方にもレンタサイクルはぴったりかと思います。もちろん市民の方の足としても活用いただきたいので、台数を増やしているところです。

サイクルトレイン-KettA(ケッタ)-の写真

人も自転車も列車に乗る光景が
日常となる近い未来を目指して

近鉄
もう一つ始めた取り組みが、観光列車「つどい」を活用したサイクルトレイン-KettA(ケッタ)-です。KettAは、沿線の中京圏や関西圏から、伊勢志摩へサイクリングに訪れるサイクリストにご利用いただきたい列車です。車内には志摩市さんのお力添えをいただいて購入したサイクルラックに自転車をそのまま積載し、伊勢志摩エリア各地のサイクリングスポットへ気軽に移動できます。「ケッタ」とは東海地方で「自転車」を表す方言で、列車名の通り、三重県でサイクリングを楽しむお客様の「つどい」の場となることを願っています。安心して自転車を預けられるように、車庫での実験ではラックの配置を変えながら急ブレーキ下での安全性も確認しています。
志摩市
拝見しましたが、ラックが並ぶ様子は迫力がありフィットネスジムみたいですね。自転車は高価なものもありますし、しっかり固定できて安心してラックに預けられるように考慮されているのだと思いました。
近鉄
KettAではサイクリストを伊勢志摩に呼び込むことで観光の活性化を目指しています。同時に、普通電車のサイクルトレインでは、地域の高齢者の方が自転車で電車に乗りスーパーに買い物に行くことが日常となるような未来を目指しています。それには、自治体や地域の方々の受け入れ体制を整えていただくことも大切になるので、志摩市さんにはこれからもご協力をお願いできればと思っています。
志摩市
志摩市はゼロカーボンシティ宣言もしているので、二酸化炭素排出量を削減できるサイクルトレインの普及は大切です。公共交通の活性が地域の活性になり、住民の方の暮らしへの満足度にもつながっていくと思いますので、近鉄さんと志摩市と地域住民との三位一体で取り組んでいけたらと考えています。

※本記事は2023年9月時点のものです。